一般財団法人日本自動車研究所(JARI)は、 自動車に関する総合的な研究を行う公益法人の試験研究機関です。
2000年10月より、自動車業界向けの電子商取引基盤「JNX事業」を展開しています。同事業の運営組織であるJNXセンターは、JARIの「社会と共に未来を創造する研究」のビジョンを実現するため、最新のデジタル技術を活用し、強固なセキュリティと信頼性を確保しつつ、ユーザーに優れた体験を提供しています。2025年3月時点で、2,300社以上の企業に安定したサービスを届けています。
今回、同センターの市場開発グループにおける、HubSpotのCMS「Content Hub」を活用したWebサイトリニューアルを支援させていただきました。セキュリティ強化と使いやすさ向上を目的に、CMS移行とデザイン・UIの改善を段階的に実施。
リニューアル後にはアクセスが増加し、編集作業やコンテンツの更新が容易になったことでWebサイト運用の属人化解消。Webセミナーの開催頻度も増えており、関心度の高いユーザー層の可視化に寄与しています。今回は、同センター の中山 孝明様と小山 可奈芽様にお話を伺いました。
中山氏:一般財団法人日本自動車研究所(JARI:Japan Automobile Research Institute) は、1969年(昭和44年)4月、前身である財団法人自動車高速試験場を、自動車に関する総合的な研究を行う組織に改め、クルマ社会の健全な進展に貢献することを使命とした公益法人の試験研究機関として発足し、以来、日本の自動車の発展とともに歩んでいます。JNXセンターは、JARIでJNXサービスを運営する組織です。
JNXセンターでは、自動車メーカーが車を製造する際に必要な部品を調達するためのネットワークを提供しています。例えば、自動車メーカーが車に使うタイヤをタイヤメーカーに発注する際に、その取引を円滑に進めるための基盤を支えているのが私たちです。タイヤは分かりやすい例ですが、自動車には無数の部品が必要です。小さなネジから大きな板金、いろいろなゴム製品など、多種多様な部品がこのネットワークでやり取りされています。
取引先は主に自動車メーカーですが、それ以外にも建機、重機、自動車に関する手続き(OSS、リサイクル)にも利用されています。
JNXネットワークを通じた部品調達は利用が義務化されているわけではありませんが、利便性の高さからご利用いただいております。一方で、大手企業は独自のネットワークを構築しているため、それで十分に業務が回るケースもあります。しかし、1社だけでなく他のメーカーにも部品を提供する企業にとっては、JNXネットワークに参加することで、一度に複数のメーカーと繋がれるため便利です。
JNXの導入実績 ※2025年3月時点
中山氏:JNXセンターの主な業務は、顧客窓口(CSP)との調整、セミナー開催、コンテンツ制作などです。JNXセンターでは、顧客への直接営業は行わず、CSPとして3社に業務を担ってもらっています。そのため、CSPとの調整業務が中心となります。
一方で、直接の運用とは関係ないものの、業界全体のセキュリティ意識向上に寄与する取り組みもJNXセンターの役割の一つです。例えば、映像コンテンツの制作・公開、ウェブセミナーの運営などもその一環として進めています。
今回、マーケティング活動やお客様対応などの業務の一環として、HubSpotを採用し、Webサイトのリニューアルを手掛けました。
中山 孝明氏 一般財団法人日本自動車研究所 JNXセンター
小山氏:以前使用していたCMSは脆弱性が見つかった場合の対処方針が明確でなく、状況次第では脆弱性を内在した状態で運用せざるを得ませんでした。サプライチェーンの参加者にセキュリティの重要性をお伝えしている我々が、このような状態で運用を続けることは望ましい事ではないと考え、CMSの移行を検討し始めました。
中山氏:その後、「CMS 引っ越し」とWeb検索した際に、株式会社100さんのページでHubSpotに関する情報を見つけ、そこから選定が始まりました。その他のCMSも比較しましたが、最新のサービスの方がセキュリティリスクが低いと判断したことと、SaaSという常に最新の機能やバージョンを利用できるという点が決め手となりました。
実を言うと、当時の自動車業界ではHubSpotの導入事例が少なく、SaaSでこのようなCMSがあるということ自体、あまり認識していませんでした。SaaS CMSはサーバーやソフトウェアのインストールも不要で、セキュリティ対策も自社ではなくSaaS提供会社で実施いただけるとのことで非常に多くのメリットを感じました。
小山氏:HubSpotを選んだ時点で、単なるコンテンツの保管場所としてではなく、その特性を最大限に活かしてサイトを再構築する方が良いと判断しました。HubSpot CMSをしっかりと理解しWebサイトを構築すれば、現在社内で抱えている課題の解決につながるのではないかと考えました。
加えて、以前のサイトは2017年に公開されたもので、年数が経過していることに加え、社内からは「ユーザーにとって使いにくいのではないか」との指摘も寄せられていました。そのため、HubSpotへの移行を機に、単なる引っ越しではなく、サイトの構成やデザイン
自体を見直すことが重要だと考えたのです。結果として、ユーザビリティ向上と運用負担軽減を目的に、サイト構成やUIを全面的に見直し、フェーズを分けて段階的にリニューアルを実施することにしました。
中山氏:Webサイト運用は私と小山の2人が担当していましたので、今回のWebサイトリニューアルプロジェクトも私たちが推進しました。
小山氏:当時のCMSでは、ある程度HTMLの知識がないと自由に編集できず、基本的にテキストの差し替えや文字の大きさの調整程度しか対応できませんでした。そのため、作業の標準化が難しく、全員が簡単に更新できる環境ではなかったんです。
2017年のリニューアル直後は積極的に更新していた時期はありましたが、次第に更新の手間が負担となり、作業の優先度が下がるようになりました。結果として、数ヶ月に1回まとめて更新する流れになり、日々の情報発信をリアルタイムで実施することが困難になったのです。
中山氏:実際の運用では、ブログ記事の更新がメインで、それ以外の作業は外部の業者に依頼していました。編集機能としては、テキストの入力や基本的な装飾、写真の配置といった最低限の作業しかできず、Webサイトの管理自体が属人的になり、私たち2人が担当しなければ更新が進まない状態でした。
小山 可奈芽氏 一般財団法人日本自動車研究所 JNXセンター
小山氏:最初から「これを作りたい」という明確なビジョンがあったわけではく、漠然と「良い感じに」とお願いしていたのですが、それを100さんには私たちの思いをうまく形にしていただけたと思っています。私たちがうまく伝えきれなかった部分をうまく表現していただいたことに、本当に感謝しています。
信太(ハンドレッド):ありがとうございます。やはり特殊な業界であるため、ぱっと見て理解しにくい部分もあり、設計段階でできる限り整理しました。ただ、その整理が最適かどうかを弊社だけで判断するのが難しい部分もありました。そのため、ワイヤーフレームの作成からデザイン・構築に至るまで、小山さんには細かく確認していただき、密にコミュニケーションを取りながら進めました。図版一つにしても、「このデザインで問題ないか」「こういう表現が果たして適切なのか」といった点を、都度確認しながら進める必要がありました。その分、JNXセンターの皆様には多くの時間を割いていただき、お手数をおかけした部分もあったかと思います。
小山氏:以前のWebサイト設計が完璧ではないことは認識していましたが、何が正解なのかも私たちは明確に把握できていない状態でした。そういった中で、ほぼ毎週のように打ち合わせを重ね、文章では表現しきれない思いを共有する時間が必要でした。おそらく他社と比べて時間をかけていただいたと思いますが、その時間が非常に有益で、私たちにとってありがたかったです。言語化できていなかった部分を「ああでもない、こうでもない」と話し合う機会が非常に貴重でした。
ー1回目のCMS移行と2回目のデザイン・UI改善後の成果について教えてください。
小山氏:定量的な変化として、リニューアル後にWebサイトへのアクセスが増加しました。特にオーガニック流入が2倍以上に増えていることから、社外のお客様からのアクセスが急激に増えていると考えています。オーガニック流入増加は、ただ単にWebサイトのデザインを変えただけではなくUIを改善し、新しいコンテンツも用意したことが寄与していると考えています。リニューアルについて関係者から声をかけられることも増えており、今後はコンテンツの更新頻度を上げていきたいと考えています。この機会に、より多くの方に継続的に訪れてもらえるようにしたいです。これまでは数カ月に1回の更新でしたが、今後は月1回の更新を目指していきます。
また、CMSをHubSpotに移行し、汎用的なテンプレートやモジュールを活用することで、特定の担当者に依存していたWebサイト運用を簡素化し、誰でも編集作業を行える環境を整えました。新しいコンテンツの公開時には、コーディングを行う必要がなくなり、精神的な負担が軽減されたと実感しています。データの管理に関してはセキュリティを重視し、誰でも自由にアクセスできる状態にはせず、権限の振り分けを行っています。そのため、現時点ではまだ一部で属人的な対応が続いているものの、CMSの編集作業に関しては格段に扱いやすくなったと感じています。
信太(ハンドレッド):運用を社内で簡単にできるように、汎用的なモジュールやテンプレートを作成して納品しました。そのため、HTMLを手動で記述することなく、ほとんどの編集作業を誰でも簡単にできる形に仕上げています。
小山氏:また、新Webサイトのコンテンツ、デザインやUIに関しても非常に満足しています。以前のサイトは業界向けのニッチな内容だったので、ネットワークについてある程度理解している方にとっては問題ないものの、その他の方にとっては分かりにくい部分がありました。しかし、今ではWebサイトに訪れてくださった誰もが理解しやすい動線やデザインになっています。
中山氏:社員からの反応も非常に好評でした。特にトップページが大きく変わり、爽やかで清潔感のある印象があり、また自動車業界らしい雰囲気をしっかりと表現できたと感じています。
HubSpot Content HubでリニューアルしたWebサイト:JNXセンター TOPページ
信太(ハンドレッド):新Webサイトでは、UI部分にも多くの工夫をしました。貴社のメッセージを伝えていくためには、ユーザーにとって使いやすい動線、UIは非常に重要だと思っているため、良い評価をいただけて、とても嬉しく思います。
信太(ハンドレッド):今回、HubSpotとZoomの連携支援もさせていただきました。Webサイトのリニューアルと合わせて、社外へ情報発信する一環としてWebセミナーを実施したいとのご要望があり、その運用効率化のためにHubSpotとZoomの連携を行いました。どのように運用効率化が実現されたのでしょうか?
小山氏:以前はHubSpotを使わずにWebセミナーを開催していました。Zoomでセミナーを設定し、参加者にはメールで案内を送っていました。ほとんどがメールとExcelで対応していたような状態です。1回目のリニューアルの時に、100さんにHubSpotとZoom連携の支援をしていただきました。
中山氏:元々はうちのシステムで2400人にメールを一斉送信し、反応があった人に対して担当者がすべて手動でお礼の返信をしていました。今回、HubSpotでウェビナーの受付を自動で行えるようになったのは、私たちにとって衝撃的な変化です。
宛先も手作業で管理していたので、間違いが起こることもありました。それでも、連携なしで進めていたのですが、やはり手間がかかっていました。
自動化やWebセミナーを効率的に運営するための取り組みを進めたことで、Webセミナー実施のハードルが下がりました。そのおかげでセミナーの頻度が増えて、予想以上の好結果でかえって忙しくなってしまいましたが、それも良い方向に進んでいる証拠です。以前は年に1回くらいだったのが、今では2カ月に1回程度の実施頻度になっています。
HubSpotとZoomの連携イメージ
小山氏:以前はHTMLの知識がないとセミナー案内を作成できなかったため、開催概要や講演者情報など、簡単に編集できる内容のみを発信していました。しかし、現在ではビジュアル的に訴える形式で案内できるようになり、質が大幅に向上したと感じています。伝えたい情報を的確に伝えることができ、更新のスピードも向上しました。他社開催のセミナーが増加している中で、より目を引く情報提供ができるようになり、弊社のセミナー参加者も増加しているのではないかと思います。
信太(ハンドレッド):Webセミナーを頻繁に実施するようになると、PDCAサイクルを回しやすくなり、どのテーマが顧客の興味を引くかを早期に把握できるようになります。コンテンツ発信におけるPDCAの回しやすさは重要なポイントです。また、Webセミナーに加え、今後はブログの更新頻度も上げていく予定とのことで、「更新のしやすさ」は今後施策を進める中で非常に大事だと感じています。
小山氏:Webサイトの拡張は具体的な計画はまだありませんが、今後積極的に取り組んで有益なコンテンツをユーザーの皆様に届けたいです。HubSpotにはAI機能などが搭載されているので、コンテンツの作成に関しても活用できると期待しています。また、マーケティングについては、100さんと協力してデータ整理を進めていきたいです。現在、JNXの運用に必要な顧客データは必要なときにクローズドネットワークで都度確認する形で、項目数にも制限があることから、マーケティング情報としての顧客データとは分断された管理になっています。今後は、長期的に活用できるようにデータを整理し、より使いやすい形にしていきたいと考えています。
信太 美香 株式会社100 Chief Director プロジェクト責任者
中山氏:それから、JNXセンターでは、リニューアルしたWebサイトの他にも、JNX会員向けのWebサイトがあります。現在この2つの顧客データは連携が取れていないため、今後はHubSpotと連携させていきたいと考えています。点在するデータの連携を強化し、最新データを活用したマーケティング施策は今後積極的に行っていきたいと考えます。
小山氏:今回は何よりも初めてSaaS CMSを導入するという弊社の取り組みを手厚くサポートいただいたことに非常に感謝しております。Webサイト設計段階から深く入っていただき、UIやデザインに関しても私たちのイメージしているものを言語化し反映していただきました。現在は導入が終わり運用フェーズに切り替わるタイミングで、引き続きHubSpotに関して色々とご支援いただきたいと思っています。
中山氏:一般的に、こうしたサービスは保守フェーズに入ると、質問回数に制限が設けられることが多いですが、「何でも聞いてください」という姿勢で手厚くサポートしていただいており、本当に助かります。リソースや知見が足りていない部分を外部に業務委託するのは一般的ですが、100さんは外部の方というよりもWebサイト運用担当者やマーケティング担当者を雇っているような感覚で日々頼らせていただいています。
信太(ハンドレッド):長期的なプロジェクトになるかと思いますので、今後もぜひ、外部というよりビジネスパートナーとして、先ほど触れたデータの統合についても一緒に進めていければと思っております。